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小川シェフのブログ

仕事のこと

旅館は、次の時代へ

BLOG_旅館は、そのさきへ

最近、レストランや地方創生の仕事に加えて、旅館のプロジェクトに関わる機会が増えてきました。料理人としてキャリアをスタートした僕が、まさか旅館の新規事業に深く関わるようになるとは、若い頃は想像もしていませんでした。

ただ、今振り返ると自然な流れだったようにも思います。料理をつくることが目的だった時代から、料理を通してどんな体験を生み出すかを考えるようになり、さらにその体験が地域や事業の未来にどう繋がるかを考えるようになったからです。

現在サポートしているプロジェクトのひとつが、福井県あわら市にある老舗旅館・ 美松 の新規事業です。創業から長い歴史を持つ旅館ですが、今回大きな挑戦をしています。それは、宿泊のお客様が夕食として和食だけでなく、フレンチのコースも選べるようにすること。

一見すると「旅館でフレンチを始める」という話に聞こえるかもしれません。しかし実際は、それほど単純な話ではありません。僕が担当しているのは、料理監修だけではありません。

事業全体のMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の設計から始まり、コンセプトづくり、シェフの紹介、メニュー開発の方向性づくりまで、プロジェクト全体に関わらせていただいています。今回掲げたビジョンは、「美松での食事が、旅館に泊まる理由になる」というものです。

料理は手段であって、目的ではありません。本当に考えるべきなのは、お客様がどんな時間を過ごし、どんな気持ちで帰っていただくのか。そのために旅館として何を提供するべきなのか。そんな議論を経営陣やスタッフの皆さんと何度も重ねています。先日も、料理の試食会とサービススタイルのシミュレーションを行いました。料理そのものの完成度はもちろんですが、私が見ていたのは別の部分です。

客室まで料理を運ぶ動線はどうか。
提供温度は保てるか。
料理説明は長すぎないか。
スタッフの所作や空気感はどうか。

レストランであれば当たり前にできることも、旅館になると前提条件が大きく変わります。まだまだ改善すべき課題はたくさんあります。しかし、それは決してネガティブなことではありません。むしろ新しい価値を生み出そうとするからこそ見えてくる課題です。

今回のプロジェクトでは、接客のプロフェッショナルであるイマ・マネージメントの土谷久美子さんにもご協力いただいています。私は料理やコンセプトの視点から。土谷さんは接客やおもてなしの視点から。それぞれの専門性を持ち寄りながら、一つの体験を形にしようとしています。

僕自身、このプロジェクトを通じて改めて感じていることがあります。それは、これからの時代に必要なのは「業態の枠」を超えることではないかということです。

レストランだからこうあるべき。
旅館だからこうあるべき。
ホテルだからこうあるべき。

そうした固定観念の中で競争していても、未来はつくれません。大切なのは、その場所だからこそ生み出せる価値は何かを考えることです。今回僕たちが目指しているのは、単なるフレンチレストランではありません。

温泉でほどけた身体に、福井の恵みが静かに満ちていく。

そんな滞在体験そのものを設計することです。旅館の食事を一食ではなく、滞在の物語として捉える発想から生まれた取り組みでもあります。そして何より、この挑戦を決断した経営陣の皆さんを私は心から尊敬しています。

老舗には伝統があります。伝統は大切です。

しかし時として、伝統は変化を恐れる理由にもなります。そんな中で、「今まで通り」ではなく「未来のために変わる」という決断をすることは簡単ではありません。

現状維持は安全です。挑戦にはリスクがあります。それでも一歩を踏み出した。

私はそこに、この旅館の未来を感じています。料理人としての仕事は料理を作ることだけではありません。

事業をつくること。
人を育てること。
地域の未来をつくること。
そして挑戦する人たちを支えること。
そんな仕事が少しずつ増えてきました。

ありがたいことに、最近は飲食店だけでなく、旅館やホテル、地域プロジェクトなどからもご相談をいただくようになりました。僕は決して万能ではありません。ですが、料理人として30年以上現場に立ち、経営者として失敗も成功も経験してきたからこそ、お手伝いできることがあると思っています。

これからも、食のチカラで未来をつくる。
その想いを胸に、一つひとつのプロジェクトと向き合っていきたいと思います。

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