はじめに

幼い頃から、僕は父の背中を追いかけた。板前として厨房を仕切る父の姿は、僕にとって最も尊敬すべき光景だった。その熱気溢れる厨房の中で、魚を捌き、野菜を切る音は、僕の心に深く刻まれた。しかし、ある時、叶わなかった父の夢を知ることになる。それは、遠いフランスの地で生まれた見たこともない料理への憧れ。そして、若き父が目指したフランス料理への道。

僕は田舎で育った。フランス料理など、目にする機会も少なく、触れることなど夢のまた夢。それでも、どうしても父が憧れたそのフランス料理の魅力からは逃れられなかった。そこで決意した。和食の道ではなく、フレンチの道を歩むことを。この決断は、僕にとって新たな旅立ちを意味していた。

その旅は容易なものではなかった。フランス料理の基礎から学び直し、異国の地での修業、そして、言葉の壁。すべてが僕を試すかのようだった。しかし、それらの困難を乗り越えるたび、僕の中の情熱はより一層燃え上がった。そしてついに、僕はシェフとして自分の名を刻むことができた。

この物語は、田舎育ちの一人の青年が、父の叶わなかった夢を継いで田舎から一歩踏み出し、未知なるフランス料理の世界へと旅立つ姿を描いている。その道のりには多くの困難が待ち受けていたが、父から受け継いだ料理への愛と情熱が僕をシェフへと導いた。

田舎から飛び出して見たこともないフランス料理の世界に飛び込んだ僕の成長と挑戦、そして料理を通じて人々と繋がる喜び。この物語は、夢を追い求めるすべての人々へのエールであり、料理が人の心をどのように動かし、結びつけることができるのかを伝えるために書いたものです。


小川智寛