第一章-15 フランス料理
叶わなかった父の夢。それは、古ぼけた段ボールの中で何年も眠っていた。そして、突如、僕の目の前に現れた。 ブオーン、という乾いたエンジン音が聞こえた。道路と家の駐車スペースの境には、水はけのために路肩があり、それをバックで...
叶わなかった父の夢。それは、古ぼけた段ボールの中で何年も眠っていた。そして、突如、僕の目の前に現れた。 ブオーン、という乾いたエンジン音が聞こえた。道路と家の駐車スペースの境には、水はけのために路肩があり、それをバックで...
テーブルに座るやいなや、山盛りに盛られた唐揚げには目も向けず、早口で母に疑問をぶつけた。「ねえ、俺の押入れにあった料理の本、お父さんのやろ?」母は、素っ気なくそれを認めた。「そうや。置いとくとこないからそこに置いといて」...
転校は、思ってたより大げさなものではなかった。気持ちはさほど揺れず、”ああ、今日で進明に通うのは最後だなぁ”くらいしか思わなかった。5月14日。中学2年生の新学期が始まって1ヶ月とちょっと。学年が上がるごとにクラス替えが...
文化包丁を研ぎ終わると包丁と砥石を片付け、父は別の包丁を出してきた。その包丁は木で出来た鞘に収まっていて、鞘を抜くと、そこから細身で長い、まるで小さな刀のような包丁が現れた。その刃渡りは30㎝以上はあっただろう。表面が鏡...
僕は進明中学校に進学した。松本小学校とは反対方向に歩いて10分のところにある。進明中学は市内でも悪名高く、特に僕の2つ上の先輩たちはよく警察沙汰の事件を起こしていた。廊下を原チャリが走るは、窓ガラスをバットで割って歩くは...
浮舟を閉めたことで僕たち家族の生活は大きく変わった。父も母も朝が早いのは今までと変わらないのだが、帰宅する時間が早くなったからだ。父は夜の8時までには帰ってくるし、母はだいたい6時までには帰ってくる。これは、今まで滅多に...
父はひどくショックだったに違いない。家族に対して申し訳ないと言う気持ちでいっぱいだったに違いない。もちろん、誰も父を責めなかったし、恨むこともなかった。こんなショッキングな事件があった後も父と母はいつもと同じように毎日店...
僕にとって、いや弟にとっても一大事は転校しなければいけないことだった。引越し先はここからそれほど離れていないとはいえ今の小学校の校区外となり、別の小学校に転校しなければならなかった。父と母が、「子供ら転校させるのはやっぱ...
「ここに家を建てる」父は少し興奮気味に、そして宣言するように言った。家を建てると同時にお店もここに移転する。一階がお店で二階が住居となるということらしい。この場所は福井駅から車で10分ほど北に走った市街地の外れで、すぐそ...
浮舟がオープンして7年が過ぎようとしていた。この頃になると、両親の必死の努力の甲斐あってかお店は少しづつだが軌道に乗り始め、父はアルバイトをやめ、母も内職をやめていた。いや、実は、父はアルバイトを完全にやめていたわけでは...