第一章-1 小さな料理屋「浮舟」
僕がフランス料理の道を選んだのは、運命だったように思う。フランス料理という、一見すると華やかな言葉の響きとは裏腹に、その道はひどく険しく辛いことだらけだ。フランス料理の世界に限らず、どの料理の世界でも、いや、どの分野であ...
僕がフランス料理の道を選んだのは、運命だったように思う。フランス料理という、一見すると華やかな言葉の響きとは裏腹に、その道はひどく険しく辛いことだらけだ。フランス料理の世界に限らず、どの料理の世界でも、いや、どの分野であ...
お店を開くには500万円という大金が必要だったが、それはなんとか用意することが出来た。方々駆けずり回って集めたお金だ。もちろんその大半が借金である。いや、すべてが借金だと言ってもいいくらいだった。 浮舟は和食のお店だった...
小学生になると集団登校になり、歩いて家と学校を往復するようになった。もう毎日お店に行くことはなくなった。祖母の待つ団地に帰るからだ。そうなると両親と会う時間がほぼ無くなる。 ある日、僕は自転車でお店まで行くことを思いつく...
翌日、学校が終わると父が校門で待っていた。僕の通う松本小学校は当時、全校生徒が1.000人を超える県内有数のマンモス校だった。各学年6クラスづつあり僕は1年1組だった。この全生徒の靴を入れておくための下駄箱が玄関には何列...
目の前で青い炎が輪になって整列している。その炎に蓋をするようにフライパンが被せられ、炎はフライパンの底を外側に広がろうとする。「ともひろ、ここを左手で持て」父は僕を後ろから抱きかかえるような格好でフライパンに油を薄く塗り...
浮舟がオープンして7年が過ぎようとしていた。この頃になると、両親の必死の努力の甲斐あってかお店は少しづつだが軌道に乗り始め、父はアルバイトをやめ、母も内職をやめていた。いや、実は、父はアルバイトを完全にやめていたわけでは...
「ここに家を建てる」父は少し興奮気味に、そして宣言するように言った。家を建てると同時にお店もここに移転する。一階がお店で二階が住居となるということらしい。この場所は福井駅から車で10分ほど北に走った市街地の外れで、すぐそ...
僕にとって、いや弟にとっても一大事は転校しなければいけないことだった。引越し先はここからそれほど離れていないとはいえ今の小学校の校区外となり、別の小学校に転校しなければならなかった。父と母が、「子供ら転校させるのはやっぱ...
父はひどくショックだったに違いない。家族に対して申し訳ないと言う気持ちでいっぱいだったに違いない。もちろん、誰も父を責めなかったし、恨むこともなかった。こんなショッキングな事件があった後も父と母はいつもと同じように毎日店...
浮舟を閉めたことで僕たち家族の生活は大きく変わった。父も母も朝が早いのは今までと変わらないのだが、帰宅する時間が早くなったからだ。父は夜の8時までには帰ってくるし、母はだいたい6時までには帰ってくる。これは、今まで滅多に...