第一章-5 ぐちゃぐちゃのオムライス

目の前で青い炎が輪になって整列している。その炎に蓋をするようにフライパンが被せられ、炎はフライパンの底を外側に広がろうとする。「ともひろ、ここを左手で持て」父は僕を後ろから抱きかかえるような格好でフライパンに油を薄く塗り...

第一章-4 父が迎えに来た

翌日、学校が終わると父が校門で待っていた。僕の通う松本小学校は当時、全校生徒が1.000人を超える県内有数のマンモス校だった。各学年6クラスづつあり僕は1年1組だった。この全生徒の靴を入れておくための下駄箱が玄関には何列...

第一章-3 大冒険の結末

小学生になると集団登校になり、歩いて家と学校を往復するようになった。もう毎日お店に行くことはなくなった。祖母の待つ団地に帰るからだ。そうなると両親と会う時間がほぼ無くなる。 ある日、僕は自転車でお店まで行くことを思いつく...

第一章-2 父の手のぬくもり

お店を開くには500万円という大金が必要だったが、それはなんとか用意することが出来た。方々駆けずり回って集めたお金だ。もちろんその大半が借金である。いや、すべてが借金だと言ってもいいくらいだった。 浮舟は和食のお店だった...

第一章-1 小さな料理屋「浮舟」

僕がフランス料理の道を選んだのは、運命だったように思う。フランス料理という、一見すると華やかな言葉の響きとは裏腹に、その道はひどく険しく辛いことだらけだ。フランス料理の世界に限らず、どの料理の世界でも、いや、どの分野であ...