無名だから見える本質
僕は有名シェフでもないし、当然スター性などない無名のシェフです。
でも、無名であることこそ、僕にしか見えない景色を与えてくれる––そう確信してます。
僕は、名声も肩書きも持たない料理人です。だからこそ、誰かの評価を満たすための料理ではなく、「自分がなぜ料理をするのか」という存在理由そのものと向き合わざるを得ません。これは決して格好の良い話ではなく、むしろ逃げ場のない現実です。でも、この“逃げ場のなさ”こそが、僕の料理の純度を高めてくれているのではないか––そんなふうに思っています。
僕はいつも、日本の食の価値とは何かを問い直しています。世界中を見渡せば、美食はどこも技術の競争になりがちです。もちろん技術は大切です。しかし、日本が世界に誇るべき本質は、技術そのものよりも、その奥に流れる精神と哲学だと僕は感じています。
たとえば、自然との調和や、余白を美とする感性、侘び寂びに象徴される静けさへの敬意。それらは「足す」ことではなく「見つめる」ことで生まれる世界観です。派手な演出や強烈な刺激とは対極にあるかもしれませんが、今の時代にこそ必要な視点ではないでしょうか。情報が溢れ、スピードが求められる時代だからこそ、深く味わう姿勢が求められているはずです。
無名の僕には、しがらみなどありません。肩書きに守られることもなければ、期待に縛られることもない。この“無重力”とも言える状態は、時に心細いものですが、同時にとてつもない自由でもあります。だから僕は、あえてこの無名性を武器にすることにしました。
誰にも忖度しない目で日本の本質を拾い直し、そのまま世界へと投げかける。技術や権威に寄りかからず、ただ誠実に、「食の可能性」を追いかける。そんな僕の姿勢は、世界のどこかで誰かの心に触れると信じています。
そして、僕のような名もなき一人ひとりの小さな純度こそが、やがて大きな力となり、日本を再び世界一へ押し上げる原動力になると本気で思っています。変化はいつも、中心ではなく、周縁から始まるからです。多様な価値観が共存し、互いに影響し合うことで、新しい未来は必ず生まれます。
僕が信じるのは、食を通じて人と人が価値を共創していく世界です。名声ではなく、深さ。効率ではなく、誠意。その積み重ねが「未来をつくる」と、僕は心から信じています。
無名であることは弱さではなく、選択のチカラです。僕はこの立場から、これからも日本の本質を世界へ届けていきます。
食のチカラで、未来を変えていくために。


