問い続けること
先日、ビジネス誌の取材(インタビュー)を受けました。
それは、自分の実績を語るというより、むしろ自分自身に問い返される時間だったように思います。
インタビュアーは、王様のブランチでリポーターを務める榎本ゆいなさん。
柔らかな空気感の中で始まった取材でしたが、話せば話すほど、
「なぜ僕は、ここまで歩いてきたのか」
「なぜ今も、この仕事を続けているのか」
そんな問いが、静かに自分の内側に返ってくる感覚がありました。
振り返ってみると、僕には特別な才能があったわけでも、最初から明確なビジョンがあったわけでもありません。
ただ料理が好きで、目の前の仕事から逃げたくなかった。
本当に、それだけです。
インタビューでは、東京を拠点にしながら、地元・福井でもレストランを立ち上げ、都市と地方を行き来する中で見えてきた現実についても話しました。
その一つが、地方では「価値ある食体験」が正しく評価されにくいという課題です。
僕はこの課題を、「料理」だけでなく「事業」の視点からも解決したいと考え、東京と地方を行き来しています。それは決して理想論ではありません。
現場で何度も壁にぶつかり、悔しさを味わいながら掴んできた実感です。
食の可能性は、味や技術だけでは終わらない。
仕組みや、価値の届け方まで含めてこそ、はじめて未来をつくる力になる。
僕はそう信じています。
若い頃の修行時代の話もしました。
正直に言えば、料理を楽しめなくなりかけた時期もありました。
未熟で、視野も狭く、心にも余裕がなかった。
それでも続けられたのは、「やめたくない」という気持ちだけは、最後まで手放さなかったからです。
本当に辛かったとき、師匠に言われた言葉があります。
「本当に仕事が辛いのか。それは、料理を楽しんでいないからだ」
その言葉を聞いた瞬間、料理人を続けるなら、自分の考え方を変えるしかないと腹を括りました。
料理は、技術や努力だけでは成立しません。
「楽しむ」という原動力こそが、発想のしなやかさと創造性を生み出します。
この感覚を取り戻せれば、どんなに厳しい現場でも、人は前に進み続けられる。
それを、僕は身をもって学びました。
この経験が、今、若い料理人や仲間と向き合うときの姿勢の土台になっています。
インタビューを通して、遠回りに見えた選択や、迷い続けた時間も、すべて今につながっていると改めて感じました。
完璧な答えなんて、最初からいらない。
ただ、自分なりの問いを持ち続けること。
環境や評価に振り回されず、何を大切にしたいのかを見失わないこと。
それが何より重要だと思います。
技術は目的ではなく、表現の手段です。
最終的に問われるのは、「どんな価値を届けたいのか」。
その問いが、料理人としての道筋をつくっていく。
多様な価値観が交差する時代だからこそ、食を通じた共創が、これからの未来を形づくっていくと僕は信じています。
料理は、人生の縮図です。
苦労も、挫折も、葛藤もある。
けれど、それらすべてを引き受けた先に、必ず自分だけの表現と世界が開けていく。
食のチカラを信じ、楽しむ姿勢を忘れずに。
僕はこれからも、問い続けていきます。


