第二章-1 箱根の最初の朝
4月の箱根は、春とは思えないほど冷たかった。空気は澄み切っているのに、指先がじんじんと痛むような寒さ。吐く息が白く、山の上のほうにはまだうっすらと雪が残っていた。あのとき面接で訪れたオーミラドーが、再び僕の目の前にある。...
4月の箱根は、春とは思えないほど冷たかった。空気は澄み切っているのに、指先がじんじんと痛むような寒さ。吐く息が白く、山の上のほうにはまだうっすらと雪が残っていた。あのとき面接で訪れたオーミラドーが、再び僕の目の前にある。...
最初の一週間、僕は毎朝、薄暗い箱根の冷たい空気の中で、プール掃除とエントランスの花壇の手入れをしていた。 厨房に立ちたくて来たはずなのに、包丁どころかコックコートに袖すら通していない。持ってきた包丁は、部屋の隅で沈黙のま...
料理人になりたくて入ったのに、3ヶ月間、料理には一切触れさせてもらえなかった 朝の5時を過ぎると、箱根の空気は底冷えしていた。 まだ日も昇りきっていない。庭に出ると、霜が芝の葉先に薄く張り付いていて、踏み込むたびにかすか...
夏が来た。7月に入ると、箱根の現場は一変した。 山の上でも、蒸し暑さは容赦なく迫ってくる。週末ともなればランチが2回転する。前日の夜、予約のリストが壁に貼り出される。名前がびっしりと並んでいた。 厨房は、戦場になった。朝...