第二章-2 ひとり、いなくなる
最初の一週間、僕は毎朝、薄暗い箱根の冷たい空気の中で、プール掃除とエントランスの花壇の手入れをしていた。 厨房に立ちたくて来たはずなのに、包丁どころかコックコートに袖すら通していない。持ってきた包丁は、部屋の隅で沈黙のま...
最初の一週間、僕は毎朝、薄暗い箱根の冷たい空気の中で、プール掃除とエントランスの花壇の手入れをしていた。 厨房に立ちたくて来たはずなのに、包丁どころかコックコートに袖すら通していない。持ってきた包丁は、部屋の隅で沈黙のま...
4月の箱根は、春とは思えないほど冷たかった。空気は澄み切っているのに、指先がじんじんと痛むような寒さ。吐く息が白く、山の上のほうにはまだうっすらと雪が残っていた。あのとき面接で訪れたオーミラドーが、再び僕の目の前にある。...