師との別れ

箱根オーミラドーの勝又登シェフが、昨日ご逝去されました。
ムッシュは、僕にとって料理人としての原点であり、人生の師でした。
料理の厳しさも、美しさも、覚悟も、そして「生き方」までも教えてくれた方です。
ミラドーの厨房には、額に入った言葉が飾られていました。
「やるしかない」
そして、ムッシュは僕にこう言いました。
「やれるかどうかを考えるんじゃない。やるしかないんだ。」
その言葉は、今も心の奥で燃え続けています。
どんな困難な仕事でも、どんな状況でも、
「やる」と決めた瞬間に、人は強くなれる。
そのことを、ムッシュは背中で教えてくれました。
あの頃の厨房は、一日20時間を超える修行の場でした。
今なら「ブラックだ」と言われるかもしれないけれど、
あの日々が僕を作り、僕を支え、僕の軸を鍛えてくれた。
あの厨房の熱気、ソースの香り、
ムッシュの厳しい眼差しと優しい笑顔を、僕は一生忘れません。
ムッシュからは、料理だけでなく、
「レストランとは人を幸せにする仕事である」という哲学を学びました。
それは今、僕がレストランを経営し、後進を育てるうえでのすべての基礎になっています。
ムッシュ、本当にありがとうございました。
あなたの教えがあったから、僕はこの道を信じて歩けています。
これからも「やるしかない」の精神で、料理と向き合い、
次の世代へ、あなたの魂をつなげていきます。
そして、あなたの背中を追いかけながら、
これからも料理を続けます。
心よりご冥福をお祈りいたします。
小川智寛
