オーミラドーの門をくぐると、エントランスまでの数メートルがやけに長く感じられた。石畳の道が続き、その先に重厚な扉が見える。扉の前には、黒いスーツを着たスタッフがまるでお客様を迎えるかのように立っていた。彼らの整った姿勢と落ち着いた表情は、この場所がただのレストランではないことを物語っている。
その扉を前に、僕は一瞬だけ立ち止まった。その瞬間、スタッフから声をかけられる。 「面接の方ですね。遠いところまで、ようこそお越しくださいました」 客でもないのに、こんな丁寧な対応を受けることに驚きと恐縮を感じた。僕は深呼吸をして、深く一礼しながら、「よろしくお願いします」と静かに答えた。
ここで働くという夢をもう一度胸に刻む。そして、扉がゆっくりと開かれると同時に、レストランへの道が開かれた。
心臓の鼓動が一層激しくなる中、静かにその扉をくぐり抜けた。
レストランのドアが静かに閉まる音がした瞬間、心臓が一瞬大きく跳ねた。胸の奥からどくどくと脈打つ音が耳に届く。期待と不安が入り混じったこの感情は、今まで感じたことのない種類のものだった。
勝又シェフが目の前に座り、僕をじっと見つめている。彼の目は鋭く、まるで僕の内面を見透かすかのようだった。彼の存在感は圧倒的で、その場の空気を一瞬にして支配していた。シェフとしての威厳をまとったその姿は、まさに雲の上の存在だ。
僕は言葉を選びながら、今までの経歴と料理に対する情熱を伝えた。声が震えていないか、言葉が詰まらないか、頭の中で何度も確認しながら話を続ける。勝又シェフの表情はほとんど変わらず、ただ静かに聞いているだけだったが、その沈黙の中にはどこか評価を下そうとしているような緊張感が漂っていた。
ふと、蹴りドアのガラス越しに厨房の様子が目に入る。料理人たちが一心不乱に働いている姿が、まるで別世界の光景のように見えた。僕が憧れてやまない世界が、目の前で繰り広げられている。あの中に自分が立っている光景を想像するだけで、胸が熱くなる。
「ここで働きたい。」
その思いが、言葉に出る前に心の中で強く響いた。僕はこの場所で、自分の料理人としての道を切り拓きたい。勝又シェフのもとで、あの厨房で、全力を尽くして働きたい。その決意は、自分でも驚くほど揺るぎないものだった。
勝又シェフが静かに口を開き、いくつか質問を投げかけてきた。彼の言葉一つ一つが重く、僕の中に鋭く突き刺さるように感じる。それでも、僕は目をそらさずに答え続けた。緊張の中にも、確かな手ごたえがあった。ここで認められたい、そして、この場所で自分の夢を叶えたいという強い意志が、心の中でますます膨らんでいくのを感じた。
勝又シェフの視線が再び僕に向けられたとき、彼の目に微かに映る期待と厳しさを感じ取った。それは、僕にとってこの上ないプレッシャーであると同時に、大きな励みでもあった。
面接が終わりに近づくにつれ、僕の中で何かが確信に変わりつつあった。ここが、僕の新たなスタート地点になるべき場所だと。どんな困難が待ち受けていようとも、この場所で自分を試したいという気持ちは、今や僕の中で揺るぎないものとなっていた。
つづく