第二章-12 真っ赤なオーブン

あれから調子に乗って何度かフランス料理の真似事をした。そして、段々と欲が出てきた。スパイスや調味料を揃えなきゃ、道具もあれもこれも必要だ。そしてオーブンが欲しい…特にフランス料理を作るのにはオーブンが無いのは致命的だった...

第二章-11 俺、才能あるかも

一晩かけてコトコトと、フォンブラン・ド・ヴォライユと言う長ったらしい名前のブイヨン出汁を作ったのはいいけど、これを濾すのに一苦労した。鍋からお玉ですくってザルにあけるのだけど、お玉より鶏ガラの方が大きいのでコンロがこぼれ...

第二章-10 はじめて作るフランス料理

毎週、欠かさず「料理天国」を見ていたから、何か簡単なものくらい作れそうな気がしていた。だけど、どのレシピもうちでは見たこともない食材が必ずと言っていいほど出てくる。ブーケガルニとかワインとか、そんなのハニー(近所のスーパ...

第二章-9 荒田西洋料理ふたたび

坂口が抜けた後のベースは、サックスの常脇が担当することになった。ブラスバンド部だからだろうか。楽器は一通りなんでも出来るようだ。器用なやつだ。ただ、坂口が抜けてからというもの、みんなで集まって練習することも徐々に減りはじ...

第二章-8 学校やめるわ

「俺、学校やめるわ」ベースをぶら下げたまま坂口が突然の告白をした。その衝撃的な言葉とは裏腹にとても爽やかな笑顔だった。「えっ、ど、どうしたんだよ?」真っ先にボーカルの山田が驚いて振り向いた。その声はボーカルマイクを通して...

第二章-7 青春の黒いギター

僕はより一層アルバイトに精を出した。一円でも多くお金を貯めて学費の足しにするんだ。そう、強く思ったからだ。だが、その決意は長くは続かなかった。ごく普通の高校生の日常というものが僕の決意を無力化していく。放課後になるとカラ...

第二章-6 夢と未来の詰まった白い封筒

とりあえず資料を取り寄せてみよう。このまま何もせずにはいられなかった。いったい、料理学校っていくらかかるんだろう。 今なら家に誰もいない。両親はまだ仕事から帰ってきていない。弟は友達と遊びに行った。祖母は近所におしゃべり...

第二章-5 大人の世界へ

アルバイトはその後も自然に舞い込んできた。親方の手伝いもたまにしつつ、近所の土建会社の社長からも声がかかった。きっと親方から聞いたのだろう。駐車場の白線引きから工事中の旗振り、引越しの手伝いなど、料理とは関係ない仕事ばか...

第二章-4 大阪の料理学校

ダンボール箱はそのままにしてある。押入れから出したまんまだ。どうしても諦めきれなかった。僕は、毎日のようにページをめくった。読んでる、と言うより、ただ眺めているだけだった。レシピがぎっしりと書かれているが、その横書きの文...

第二章-3 フランス料理

叶わなかった父の夢。それは、古ぼけた段ボールの中で何年も眠っていた。そして、突如、僕の目の前に現れた。 ブオーン、という乾いたエンジン音が聞こえた。道路と家の駐車スペースの境には、水はけのために路肩があり、それをバックで...